妄想物語

ある日の放課後、図書室にはSHINと桃子の2人しかいなかった。
2人は図書委員で今日は当番の日だったのだ。


「誰も来ないし、もう帰ろうか。」


と、SHINが言うと桃子はこくりとうなずいた。


「鍵、返しに行かなきゃ。」


「いいよ、俺やるから嗣永は帰りなよ。」


そういって、桃子から鍵を預かると申し訳無さそうに


「ありがとう。」


と言って、桃子は図書室を出て行った。


職員室に鍵を返しに言ったSHINは廊下の窓から外を見た。
空は黒い雲で覆われ、ザーザーと激しく雨が降っていた。


「傘、持ってきておいてよかった。」


と呟き下駄箱へと向かうと、帰ったはずの桃子がまだいた。



「あれ、帰ってなかったの?」


と聞くと



「折り畳み傘、袋しか持ってきてなくて・・・」


と、桃子は恥ずかしそうに言った。



「じゃあ、俺の使えよ。俺ん家近いし走って帰るから。」



「そんな、悪いよ。止んできたら帰るから心配しないで。」



SHINは冗談交じりに、


「じゃあ、一緒に帰ろうよ。」


と言った。
桃子は少しSHINの顔を見て、


「うん。」


と言ってうなずいた。



冗談で言ったのにまさか、本当に一緒に帰る事になるなんて。
そう思いながらも、SHINの胸はドキドキしていた。



桃子は明るい性格とルックスの良さから、クラスでも人気者だ。
もちろん、好意を寄せる男子も少なくは無い。


そんな桃子と一緒に帰れるなんて。そう思うだけで手から汗が出た。


特に会話も無く、歩き続けると赤信号につかまった。


「ここの信号長いんだよねぇ・・。」


と桃子。


「うん。」


何とも愛想の無い返事をしてしまった。


信号を待つ間、チラチラと桃子の方を見た。
近くで見れば見るほど可愛いものである。
特別、好きとかいう感情を持っていなくてもそう見える。


桃子の髪からシャンプーの良い匂いがする。


「やっぱり女の子は違うなぁ。」


と呟くと、


「何か言った?」


と聞かれたので、何でもない、と言いまた歩き続けた。


しばらく歩くと


「あ、ここウチだから・・・。」


と桃子が言った。


「うん、じゃあ・・・」


そう言って帰ろうとすると、


「ありがとね。」


と桃子が照れながら言った。
SHINは、


「今度からはちゃんと折り畳み傘持てこいよ。」


照れ隠しに生意気な事を言った。
恥ずかしそうにする桃子に手を振り、SHINは自分の家へと
向かっていったのであった・・・・。