スタート

僕の生徒は小学生の女の子。もうかれこれ1年近く教えている。
名前は梨沙子。どこか抜けてるが、とても可愛らしい子だ。


「ねぇ、先生。」


いつも授業は彼女のお喋りで始まる。
学校の事、友達関係の事、TVの事・・・話題は尽きない。
今日は何の話か。毎回、僕は密かに楽しみにしている。


「明後日にね、テストやるんだって。算数の。」


「へぇ〜、自信は?」


「う〜ん・・・・。ない・・かな?」


少し照れながら僕の問いかけに答える。
こんな彼女のちょっとした仕草が可愛くて仕方なかったりする。


「100点取ったらご褒美くれる?」


実は、今まで彼女は算数で100点を取った事が無い。


「何が欲しい?高い物はだめだよ。」


僕が聞くと彼女はしばらく考えた。


「え?そうだなぁ〜・・・・。」


かなり真剣に考えている。どうやら本気のようだ。


「10、9、8、・・・」


僕がカウントして彼女をせかす。


「ちょっ、あ〜。えー?」


「早く決めないと何にもあげないよ〜。」


すると彼女は、


「じゃあ、先生とデートしたい!」


と言った。


「ばーか。梨沙子の相手する程先生だって暇じゃないよ。」


僕がこう言うと彼女はスネたように、


「キスならいい?」


と聞いてきた。
最近の小学生はマセてるな、なんて考えながら。


「100点だったらな。99点はアウトだぞ。」


本当に100点取るはずが無い。軽い気持ちでOKした。



翌日


梨沙子は授業の始めに言った。


「約束、覚えてるよね?」


この子は本気らしい。


「100点だったらな。99点はアウトだぞ。」


「分かってるもん。」



テストの翌日



「で、どうだったの?」


僕の方から切り出した。
彼女はテストを取り出し、言った。


「先生の期待を裏切ったかも・・。」


おいおい、僕は小学生相手に期待なんてしてないよ。
どっちかって言えば100点取らない事を期待してたよ。


テストを見た。





菅谷梨沙子  100点



「ほら、やればできる子なんだよ!」



自慢げな顔で彼女は言う。



「先生、約束は守ってよ?100点取ったんだから。」



目をつぶって、「ん。」と口を出す梨沙子



「ほら、早く〜。」



「約束だもんな。」



そっと口を近づけた。


目を開く梨沙子



「え〜?おでこぉ?」


不満げな彼女。


「キスはキスだよ。口にするなんて言ってないよな。」



納得いかない、もう1回とせがむ彼女。



「大人になるまでお預けだよ。さっ、授業するぞ。」


「も〜、先生のばかぁ!」


終り